哲学書はなぜ難しいのか?3つの理由を把握すれば読み易くなる!

哲学の本は難しい

というイメージを抱いている方は、読者の皆様の中にどれくらいいますでしょうか?おそらく、かなりの割合の方々がそう思っているのではないでしょうか。当の管理人も「哲学の本は難しい」と感じており、勉強すればするほどますますそう思います。

私自身まだまだ「やっと哲学の世界の入り口に立てたかな」くらいの人間なのですが、どうして哲学の本が難しいのかについていくつかの要因を自分で考えてみました。他にもっと大きな要因があるのかもしれませんが、一意見として読んでいただければ幸いです。


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理由(1):日常用語を別の意味で使っている

西洋思想においては、我々が日常で使うような用語に専門的なニュアンスを含めて用いることがよくあります。

たとえば、イギリス経験論者のロックは以下のような趣旨の主張をします。

「人間は生まれた時は何も知らず、全てを経験によって把握する」

ここでいう「経験」とはどのような意味合いを持つでしょうか。

我々は、例えば、「ボランティアの経験」だとか、「優勝した経験」だとか、結構大げさな意味で「経験」という言葉を使います。ですが、ロックが用いた「経験」という言葉はもっともっと広くて、水を飲む、キーボードを叩く、木を見る、などなど、感覚器官を通じた知覚を伴うすべての行為を含む概念になります。

このように、我々がよく親しんでいる言葉を使っていると思いきや、微妙に違うことを話していたりするので、読者としては混乱してしまうのです。

理由(2):用語の定義がまちまち

これは2つの意味を含みます。すなわち、(1)「学者ごとに別の意味で使っている」(2)「一人の学者のうちで定義が多様である」の両方の場合があります。

(1)「学者ごとに別の意味で使っている」。これは日常茶飯事です。例えば、アーレントにおいては、「労働」という言葉は「成果物をいっさい残さない、ただ生命維持をするためだけの無為な行為」的なニュアンスで「労働」という言葉を定義し、「労働」をポジティブに捉えたマルクスを叩きました。しかしながら、マルクスにおける「労働」は、形に残る作品を作って人間社会を進歩させたりその人の生きた証をこの世に残す行為(アーレントはこれを「仕事」と呼んで「労働」と区別した)も含む概念だったので、この批判は噛み合ってはいないのです。

このように人によって言葉の定義がまちまちなので、学者同士だけでなく我々読者も混乱させられることになります。

(2)「一人の学者のうちで定義が多様である」のもよくあることです。例えば、ジャン=ジャック・ルソーは『エミール』の中で計5つの意味で「自然」という言葉を用いていたと言われています(田中未来『エミールの世界』誠文堂新光社, 1992年, pp.30~50)。

補足:この点について管理人の想像するところですが、おそらく、ルソーは人間の言語では表せないような大きな概念を仕方なく「自然」という言葉で仮に表現していたのではないかとも考えられます。、ほんとうは彼の中で定義は一つであるが、我々からしたら複数の概念を一つの単語で表しているように見えるだけなのではないかということです。

理由その(3):誤解を防ごうとすると複雑になる

これは哲学に限らず多くの学問領域に共通することかもしれませんが、一番重要な原因ではないかと私が考えているものです。

一般に、哲学者は、本を読んだだけで自分の言いたいことをできるだけ正確に理解してもらえるように書かれる傾向にあるような気がします。自分に直接質問してくることができない遠方の読者だったり未来の読者だったりに対しても、自分の言いたいことがわかるようにです

自分の言いたいことを厳密に、(テキストさえ解読すれば)誰にでも同じように理解してもらえるように書こうとすると、どうしても文章は長くなり、かつ専門用語の助けを借りざるを得なくなります。

哲学の学習者としてまだまだ未熟な私ですが、上記のことを理解していただくため、試しに日常言語を哲学的に翻訳してみましょう。

たとえば、一般的によく言われている次のような言説があります。

SNSの弊害(日常表現ver)
SNSの普及によって人と人との繋がりが希薄になっている。

なんとなく理解できますよね。でも、あくまで「なんとなく」であって、私が書こうとしていることと、皆さんが受け取るイメージには大なり小なり差異があるでしょう。あまりに短すぎるテキストは、いうなれば「誤解」を生むのです。

したがって、この文の意図するところを厳密に説明するためには、さらに分解していかなくてはなりません。

まずは、「SNSのせいで」「人と人との繋がり」「希薄」の定義が曖昧なので、これらを厳密に表現しなければなりません。

<語句の意味内容具体化例>
SNSの普及によって」:まずSNSが多くの人に利用可能になったという技術的要因と、そして多くの人がそれを使う風潮が生まれたという社会的要因によって。

人と人との繋がり」人と人とが、単に情報を伝達し合うだけでなく、人間として精神的に交わり心を通わすこと。

希薄」:合わなくてもコミュニケーションを取れるようになったことから、対面のコミュニケーションが発生しづらくなり、上記の「繋がり」が生まれにくくなったこと。加えて、そのようにして対面のコミュニケーションの頻度が低くなっていることに起因して、対面の状況が発生してもお互いうまくコミュニケーションを取る能力が低下していること。

※辞書的な定義とは必ずしも合致していませんが見逃してください。

これらの要素を取り入れて、上記の文をも書き直してみます。

SNSの弊害(具体化ver):
技術的・社会的意味合いにおいてSNSが普及したことによって、情報の伝達を行うという目的においての対面のコミュニケーションの必要性が失われ、そのような類のコミュニケーションによってのみ生じる人と人との精神的が交わり心を通わすという状況が発生しにくくなるとともに、そのような状況の発生頻度の低下により、各人がコミュニケーションを通じて精神的に交わる力が低下している

これでさっきよりは具体的になりましたが、まだまだ不完全です。「対面のコミュニケーションの必要性はどれくらい失われたの?」とか「『精神的な交わり』って何?」などなど、読者からすれば疑問がたくさんあります。本を読んだだけで理解してもらうためには、これらの疑問を解消できるようにしなければなりません。

そのような必要性から、最終的に哲学書に書くのであれば、以下のような表現になるのではないかなと思います。

SNSの弊害(哲学書に書くならver):
技術的・社会的意味合いにおいてSNSが普及したことによって、情報の伝達を行うという目的においての対面のコミュニケーションの必要性が–完全にとは言えないまでも、少なくとも当のコミュニケーション主体が知覚できる程度には–失われ、そのようなコミュニケーションによって、またそのようなコミュニケーションによってのみ生じる主体相互の主観的世界の相互認識が発生しにくくなるとともに、またそれによって、各主体が自らの主観的世界を他者に対して伝達する力および他者の主観的世界の現象を積極的に認識する性向が失われている
いうまでもないことですが、上記の文章を書くにあたって私は適当に哲学っぽい言葉を並べているのではありません。そうではなくて、意味内容をちゃんと表現しようとするとどうしても簡単な言葉で表せないのです。例えば「精神的に交わる」といってもなんなのかいまいちわからない上、日常言語でこれ以上分解するのも難しいですよね?それを、哲学的な用語の助けを借りてもう少し具体的に表現しようとすると、一つの表現としては、「主体相互の主観的世界の相互認識」という言葉になるのです。

一口に「SNSの普及によって人と人との繋がりが希薄になっている」とはいっても、書き手がイメージしている状況と、読み手一人ひとりがそこから内容は多少なりとも違ってくるのが普通です。したがって、誤解なく理解してもらうためには、なるべく自分の考えていることを細部まで表さないといけないので、補足情報が多くなり、かつ、専門用語の助けを借りて、その用語さえわかっていれば誰にでも理解できるように書くことになるのです。

授業やプレゼンテーションであれば、受講生は直接質問や反論を投げかけることができます。それに対して、本を書く場合には(とくに後世の人にも読んでもらうことを意識しているのであれば)質問や反論への応答まで一気にやってしまわないといけないので、必ずしも要点だけ端的に書き切るのでは不十分になってしまうのです。

おわりに

今回は、哲学書が難しい要因について考えてみました。この記事で言及した要因をまとめておきますと以下の通りです。

・日常用語を別の意味で使っている

・用語の定義がまちまち

・誤解を防ごうとすると複雑になる

とくに最後の1つは哲学に限ったことではないと思いますが、日常生活で曖昧に議論されていそうなこと(例:「美しい」とはなにか、「存在する」とはどういう意味か、など)を厳密に議論する哲学だからこそ、自然科学などの他の学問よりもこうした傾向が強いのではないかというのが管理人の印象です。

また別の機会に、これら「哲学書が難しい要因」も踏まえつつ、難しい本を読むコツなどについても書いていこうと思いますので、そちらもまたよろしくお願いします!

追記:2018年11月9日

難しい本を読むコツ、書きました! →難しい本を読むコツ:読む前に◯◯と◯◯を把握しよう!

私自身まだそこまでたくさん哲学の本を読んでいるわけではありませんが、今まで読んだ中で一番わかりやすくかつ面白かった本のリンクを下に貼っておきます。近世哲学の祖ルネ・デカルト方法序説です。西洋思想史における重要性はカントの『純粋理性批判』と並ぶくらいである一方、わかりやすさは天と地の差だと思います(笑)

気になる方は下のリンクからどうぞ↓

<関連記事>

・『方法序説』が入門にオススメである件について、詳しくは → 初心者にオススメの哲学書:はじめての人が読むべき1冊は?

・『方法序説』の一部についてはこちらで解説 → 合格体験記としての『方法序説』:教養の意味ってなんだ?


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