異教徒を虐殺から救う一般市民の話@スリランカ

ヤングジャンプ掲載の『東京喰種』という漫画が好きです。初期しか読んでいないのですが、簡単にいうと人間と、喰種(グール)という亜人間類の抗争を描く物語です。仲間を殺されたときの両サイドの心情が丁寧に描写されており、殺し合いが憎しみの連鎖を生む様子を見ていると、少年誌ですがなんだか考えさせられます。

さて、このような暴力が暴力を呼ぶ憎しみの連鎖は現実世界でも度々起きている(9.11テロに続く対テロ戦争など)ことですが、なかには実効的な非暴力手段をもって、暴力に抵抗している人々も数多くいます。非暴力的な手段は、しばしば暴力の応酬よりも問題解決の方法として有効です。今日は、現在スリランカでそうした暴力への対抗を行っている方々のお話を紹介します。

本記事は、海外のニュース記事How unarmed civilians saved lives during anti-Muslim attacks in Sri Lankaで報道された出来事について、別の資料も参照しつつ私の見解を加えたものになります。

スリランカで起きている宗教対立

スリランカは、南アジアに位置する人口約2000万人(2016年)の国で、第二次世界大戦後にイギリスから独立しました。1983年から少数派であるタミル民族の反政府武装集団「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」が分離独立を求めて武装蜂起し、2009年に政府がLTTEを制圧するまでの26年間内戦が継続していました(スリランカ基礎データ | 外務省 – Ministry of Foreign Affairs of Japan)。

さて、その後しばらく大きな政情不安はなかったのですが、最近になって、今度は別の少数派であるムスリム(イスラム教徒)への弾圧が始まっています。

多数派であるシンハラ仏教徒のナショナリスト(民族主義者。自民族の統一・発展を第一とする人々)が、「ムスリムがスリランカにおける勢力を伸ばして仏教徒の地位を脅かそうとしている」という内容の噂を流し、ムスリムへの圧力を強めています。

以下が流れた噂の一例です。

Accusations that Muslim restaurants are lacing food with pills that cause permanent infertility have motivated attacks on Muslims. They became so prevalent that the government carried out tests on the food. As it turns out, the “pills” were actually just clumps of flour.

出典:How unarmed civilians saved lives during anti-Muslim attacks in Sri Lanka – Waging Nonviolence

:ムスリム系レストランが永久避妊ピルを料理に混ぜているという非難が、ムスリムへの攻撃に火をつけた。噂が広まり、政府が料理を検査するも、結局、その”ピル”は実際には単なる小麦粉の塊に過ぎなかった。

こうしてムスリムへの反感が強まっているタイミングで、ムスリム男性4人によりシンハラ仏教徒が殺されるという事件が起こってしまいました。それをきっかけとして、シンハラ仏教ナショナリストの暴徒がムスリムの武力弾圧に踏み切ります(Sri Lanka declares state of emergency in wake of communal violence – CNN)。

爆弾を持った暴徒によって多くの建物が破壊され、1人のムスリムが殺害されました。警察が催涙スプレーをもって暴徒を止めようとしますが、なかなかうまくいきません。

しかし、ムスリムを攻撃する暴徒がいた一方で、彼らを助けようとする市民も数多くいました。

市民が市民を守る

暴徒の攻撃からムスリムを守った人々の中には、もう一つの少数民族タミル人のほか、ムスリムを敵視していない多くのシンハラ仏教徒もいました。

これらの人々は、犠牲者を出さないために様々な手段を使っています。

<暴徒からムスリムを守った人々の例>

・近所のムスリムに対して暴徒が街に近づいて来たと警告し、早めの避難を呼びかけたタミル人

・避難所を提供するとTwitterで呼びかけたホテルや一般家庭

・ムスリムが礼拝を行っている間、礼拝堂の前で暴徒が襲ってこないか見張りを続けたシンハラ仏教の僧

中でも個人的にすごいなと思ったのは、次に引用するタミル人集団の活動です。

In one particularly organized effort, a Tamil priest went to each of his parishioners’ homes and asked them to provide shelter for Muslims. He then drove Muslim families to each parishioner’s home, where they remained for the next 48 hours. When they returned home, many found that their homes had been burned down, but the community’s actions allowed them to escape unscathed.

出典:同上

:とりわけ組織化された試みとして、あるタミル人僧が自分の教区民の家を一軒一軒まわって、ムスリムに避難所を提供することを頼んだ。それから彼はムスリムの家族をそれぞれの教区民の家に誘導し、ムスリム達はそこで48時間を過ごすことになる。彼らが居住地に戻った時には多くの家は焼かれてしまっていたが、タミル人組織の行動によって彼ら自身は無傷で避難することができた。
「シンハラ仏教徒が悪玉であり被害者のムスリムを救った彼らは偉い」という話では決してなくて、利他的な行いに対してここまで団結力・行動力を発揮できたこのタミル人集団のエピソードには、合理的動機を超えて行動できる人間の可能性を感じます。

根本的解決が必要

さて、以上のようにスリランカの良識ある人々は、非暴力手段によって有効に暴力に対抗することができました。しかし、これだけでは不十分です。当面の犠牲者を救うだけでなく、なんとかして根本的に暴徒の行動を抑えなければ、真の問題解決には至りません。

最初に暴徒が行動を起こしたのは3月4日であり、その後数日間に渡って上記のような尽力により人命は救われてはきました。しかし、18日、19日に至っても、未だに暴動は報じられており、このままでは犠牲者の数はどんどん拡大しかねません。

7日以降の暴動の経緯についてはっきりと日付を書いているレポートは見つかっていませんが、最初の数日で1人が殺されたというWaging Nonviolenceの記述と比較して、18日報道時点でのBBCが「2人の死傷者」と報じていることから、少なくとも暴動が数日で沈静化したことはないと判断しています。

民族対立には根深いものがあり、相互の敵対意識をなくすのはなかなか難しいと考えられます。対立の根本的な解消、あるいは今後の武力衝突を予防することに関しては、さすがに一般市民の力では難しいかもしれなません。国際機関や政府などの第三者による調停を速やかに行うことが、解決には有効なのではないでしょうか。

おわりに

今回は暴力から身を守るための非暴力的行動をとっている人々を紹介しました。それとは別に、非暴力手段をもって相手を「倒す」方法も多く実践されており、また理論的研究にも蓄積があります。そうした類の事例や研究についても、また別の機会に紹介していきたいと思います。

参考資料

(いずれも2018年3月22日最終閲覧)

How unarmed civilians saved lives during anti-Muslim attacks in Sri Lanka – Waging Nonviolence

Sri Lanka declares state of emergency in wake of communal violence – CNN

Sri Lanka violence: Nationwide state of emergency lifted

スリランカ基礎データ | 外務省 – Ministry of Foreign Affairs of Japan

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