「弱者に優しい社会」が生んだTERFと、それに加担する偽善者について

こんにちは!

「凡さんす」(@academicocktail)と申します。

ジェンダーや哲学について日々勉強・発信しています。

この記事では、日本のフェミニズム界隈でいま問題となっているトランス差別について、私が書けるだけのことを書きたいと思います。

少し長文となってしまいましたが、どうかお付き合いください。

TERFとは?

TERFとは、 Trans-Exclusionary Radical Feministで、「フェミニストを自称しつつ、トランスジェンダーの人々を政治的考慮から除外する人々」のことを言います(参考:“Why Is British Media So Transphobic?” The Outline

多くはシス女性(身体的性を女性として診断され、自身も女性だと思っている人)で、トランス女性が女性専用のスペース(女子トイレや銭湯など)を利用することに否定的であったり、またそもそもトランス女性を女性として認めることを拒否するなどしています。

弱者に優しい社会で起きる、「弱者ポジション」の奪い合い

女性差別に反対し、性別に関わらず生きやすい社会を志向しているはずのフェミニストが、なぜこのような排外的な主張に傾いてしまうのでしょうか。

この点について、私は現代の欧米型ポリコレ社会(人権、多様性などを大切にする社会)において発生した「弱者ポジションの奪い合い」が原因ではないかと考えています。

弱者に優しい社会 → 誰もが、「弱者」になって優しくしてもらいたがる
以下でもう少し詳しく説明させていただきます。

弱者に優しい現代社会

近年、アメリカやEU、またその影響を受けた日本などの民主主義的な先進国では、社会が弱者に優しくなりつつあります。

2019年7月の参院選では、初の障害者議員が当選し、しかもその介助費用を当面は参院の方で負担することが決まりました。

れいわ2議員の国会内での介護費用、参議院が負担へ:朝日新聞デジタル 

上司と部下、投資家と起業家など、上下関係にある状態で上のものが下のものに性的な関係を迫ることも、問題として取り上げられつつあります。

アンケートの性別選択欄では、Xジェンダーその他セクシュアルマイノリティーの方々に配慮して、男性、女性、その他と三択が選べるようになりつつあります。

「弱者」に優しい社会になったのは素晴らしいことです。

人類は、「社会性」によって、そのときどきの強弱に関わらず多様な個体を残すことで、繁栄してきました「なぜ弱者を抹殺してはいけないのか? Yahoo!知恵袋の回答が秀逸すぎる」

また、そんな「人類の繁栄」などという全体主義的なことを考えずとも、本人が選択していない個性(セクシュアリティーやジェンダー、人種、国籍、障害の有無)に関わらず、一人ひとりが尊重される社会というのは素晴らしいものです。

弱者ポジションの奪い合い

さて、上記の通り、人間社会は、これまでなら排斥されてきたマイノリティ、弱者を包摂する方向に進歩してきています。

一方で、残念ながら人間社会というのは一つの問題を解決したら別の問題が生じるようでして、弱者に優しい社会もその限りではありません。

弱者に優しい社会において起きているのは、「弱者ポジションの奪い合い」という問題です。

どういうことか?

我々の多くは「他人に優しくしてもらいたい」と思っているので、弱者に優しい社会では、だれもが弱者を名乗りたがります。

「弱者」という獲得することが、現代社会における有効な生存戦略になるのです。

そして、弱者性の「獲得」では飽き足らず、私たちは自分の特権性を守るために、弱者性を「独占・寡占」しようとします。

つまり、自分がこの社会においてますます「弱く」、配慮されるべき存在であるために、他の人が「弱者」であろうとすることを否認しようとするということです。。

以上のような弱者性の「獲得」と「独占・寡占」について、例えば、近年理解が進んできた弱者性の一つに「発達障害」がありますが、「発達障害」への理解が進むにつれ、

・医学的には「発達障害」とは言えない人が、その称号を獲得しようとする動き

・発達障害の、「弱者」としての特権性を守るために、なるべく多くの人を発達障害から排斥しようとする動き

の2つの現象が起きています。

発達障害が“流行”している。敢えてこの言葉を使おう。素人の私の目にも発達障害ではない人まで、その名前を勝ち取りたくて必死だ。納得のいく診断が出るまで病院を転々とする人さえいる。
彼らが実際のところ診断名の付くかたちで障害を抱えているかはわからないしどうでもいいことだけど、それを生きづらさの理由として欲するくらいには、追いつめられているのだ。これは確かだ。

「○○できた奴は発達障害を名乗るな」のような排斥は溢れていて、ある種、病名を手にした者たちが特権階級を侵されるのを恐れての暴力である。
診断のために病院を転々とする人が存在することが、障害の診断を出すかどうかの基準が確立されていないことを裏打ちしている、つまり診断さえ疑いようがある。だから障害の有無に私はあまり興味がないのだが、診断名があろうとなかろうと、手を伸ばす人たちの主観的な「生きづらさ」は疑いようもなく存在している。

出典:いっそのこと「アフリカの恵まれない子供たち」ならよかった。|小渕花梨 @Karin_Obuchi|note(ノート)

強者たるシス女性が、自らの弱者性を守ろうとして起こるTERF?

前置きはここまでとして、TERFの話に戻ります。

シス女性がトランス女性を排斥しようとするTERFも、このような「弱者ポジションの奪い合い」という文脈に照らして理解することができるというのが私の考えです。

女性は古今東西様々な文化体系において男性に比べて「弱者」「マイノリティ」の地位にありました。

公的領域においては参政権すら認められず、私的領域においては父や夫からの暴力的支配に甘んじる。

こういった不条理、不均衡は、メアリ・ウルストンクラーフトを起点としたインテリ層によるフェミニズム思想・理論の体系化や、草の根の女性解放アクティビストによる何百年もの不断の努力によって、少しずつ改善されつつあります。

しかし一方で、フェミニズム思想は、女性を(男性に比べて)マイノリティであるという位置に慣れさせてしまい、シス女性がトランス女性に比べて「マジョリティ」であるということへの無自覚を促してしまいました。

自分たち”女性”こそが「弱者」として社会から配慮されるべき存在である。

このような前提条件に囚われている彼女たちは、生まれつき「男性」という自分たちを脅かす特権階級であった人々が「女性」というマイノリティ、しかも「トランス女性」という自分たちシス女性よりもさらに弱者であるグループに分類され、自分たちよりもさらに配慮に値する存在とされることに耐えられないのです。

特権階級から偽善を振りかざす、一部の男性フェミニスト

もっとも、私はシス女性TERFの主張に賛同はせずとも、その言い分に耳を傾けたいという気持ちはあります。

彼女たちは日頃からあらゆる場面で痴漢を始めとする性被害を受け、「女性」というマイノリティであるために、「男性」というマジョリティからの抑圧に恐怖感を覚えています。

シス女性が抱えるこのような実情を考慮すれば、TERFが言っていることも十分受け止めて、どのようにシスとトランスで折り合いをつけていくか議論していくべきでしょう。

これに対して、一番タチが悪いのは、トランスジェンダーのこともシス女性の事情もよくわからないまま議論に飛び込んできてトランス女性を差別する男性フェミニストです。

ここでは名指しは避けますが、Twitterなど上では、TERFに加担してトランス女性を差別している男性フェミニストが何人か見受けられます。

それも、フォロワーが1万人を超えているような影響力の大きい論客が行なっているために、かなり危険な状況です。

私の見立てでは、彼らは現代の「弱者に優しい社会」において、「弱者に優しい俺かっこいいだろ?」というポージングのために、シス女性の味方をしているフリをしているだけです。

自分が女性差別を受けたこともないのに、マイノリティとしての女性像を勝手に作り上げて、(自分の定義した)「弱者」に寄り添う自己満足の行動を取る彼らは、シス女性を人間として尊重せずに、自分がかっこよくなるための道具として用いるミソジニスト(女性蔑視者だといえます。

シス女性をかばうポーズをとるだけならまだしも、自分が設定した弱者の機嫌をとるために別の弱者であるトランス女性を排斥する言動・行動は、非常に厄介です。

このように特権階級から的外れな偽善を振りかざす”ヒーローごっこ”は、ますます排斥されるトランス女性にとってはもちろん、トランス女性の包摂について真摯に思考・対話しようとしているシス女性フェミニストにとっても、非常に有害な存在でしょう。

このような行為を行っている方々が速やかに考えを改めることを祈るとともに、私自身もまた、こうして差別問題に首を突っ込むにあたり、当事者にとっての邪魔者にならないよう気をつけていきたいところです。

みんな違う傷を負っているだけ

今回は、トランス女性差別問題について、「弱者に優しい社会における、弱者ポジションの奪い合い」という文脈から整理しました。

もっとも、ジェンダー・セクシュアリティ観点から見て最上位の特権階級たるシスヘテロ男性の私がこのようにマイノリティー同士の論争について分析することは、ともすればマンスプレイニングと受け取られかねません。「お前も偽善者であり、この記事はブーメランだ」という批判は受け付けます。

シスヘテロ男性:身体的性を男性として診断され、自身も男性だと思っており、性愛の対象が女性である人

マンスプレイニング:男性が偉そうに女性を見下しながら何かを解説・助言すること。man(男)とexplain(説明する)という言葉をかけ合わせた言葉

というわけで、最後はマイノリティたる女性の口から語っていただきましょう。

トランス差別反対の立場を取っているシス女性フェミニスト小渕花梨 @Karin_Obuchi さんの文章を引用し、この記事を締めます。

自分は生きていてこんなにも辛いのに「強者」と呼ばれて抑圧者扱いされて、さらに辛い気持ちになってしまった人もいるのではないでしょうか。マジョリティ−—マイノリティには様々な軸があり、今回はたまたま男女の話をしましたが、障害や生まれた地域、学歴や職業など、様々な差別があります。あなたがどこかの面でマジョリティであってもあなたのマイノリティ性はなくならないし、おおよそ被差別属性が少なかったとしても、あなたの個としての苦しみや生きづらさが軽視されることがあってはなりません。ただ、個の苦しみや生きづらさが軽視されてはならないのと同じように、構造としての差別が軽視されたり個の問題として矮小化されたりすることもあってはならないのです。

出典:みんな違う傷を負ってるだけ【連載コラム:5月】


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