ガチガチな制度からゆるやかな制度へ:約束事を守るために

こんにちは!今日は、国際政治学の雑誌を読んでいきます!

テーマは制度、すなわち大人数での約束です!みんなで約束を守るためにはどうしたらいいか考えていきましょう〜!

管理人のとある失敗

前置きとして、私の失敗談を語らせてください。

私は高校時代陸上部員であり、中長距離走部門のキャプテンでした。

ある駅伝の大会直前期、私はメンバーで食事制限をしようと思い立ち、部員に呼びかけました。2週間前からはお菓子等一切の無駄なものを禁止、1週間前からは炭水化物を抜く。これを実践して大会で結果を出そうと思ったのです。その日から、自己申告制で私に食事を報告することにしました。

ですが、結局のところこの制度はあまり機能しませんでした。最初の数日はみんなやってくれたのですが、そのうちみんな忘れてしまっていて、結局最後まで遂行したのは私だけでした。部員が継続できなかったということもありますが、管理者の私としても、全員の食事の報告を受けるのも大変で、手が回らなくなっていたのです。

なぜ、私が作り出した制度は機能しなかったのか。それを探るため(ではありませんが)、国際政治の雑誌を読んでみました。

支配から指導へ

引用させていただきますのは、米外交問題評議会(CFR)が発行する国際政治経済ジャーナル”Foreign Affairs”2018年3-4月号に掲載された論文”The world After Trump: How the System Can Endure”です。筆者のジェイク・サリヴァン氏は、かつてオバマ政権にて副大統領の国家安全保障問題担当補佐官を勤めてらっしゃいました国際政治のエキスパートです。

この論文では、「第二次世界大戦後、米国主導で作り上げられてきた国際秩序はこれからも持続するだろう」見解が述べられています。

米国主導の国際秩序(U.S.-led order)が何を指すかははっきりと述べられてはいませんが、第二次世界選後、アメリカの圧倒的な軍事力・経済力(冷戦期にはソ連との二強、冷戦後には一強)を背景に形成・維持されてきた国際平和、自由貿易による各国の経済面での協力体制などの、いわゆるパックス・アメリカーナ(Pax Americana)と呼ばれる状態を指すとみていいでしょう。

さて、第二次世界大戦後しばらくの間、アメリカが「世界の警察」として秩序を乱す国々を戦争で打ち負かしたり、またアメリカ中心で経済協定を結んでいくことで、この国際秩序は維持されていました。ところが、近年になってアメリカの相対的な軍事力・経済力(=ハードパワー!)が低下するにしたがってこの秩序の持続性に疑念が抱かれ始め、さらにトランプ大統領の対外強硬的な姿勢により秩序の崩壊、混沌への移行が懸念されています。

しかし、こうした状況にもかかわらず、今まで作り上げられてきた国際秩序は今後も維持されるというのがサリヴァンの見解です。その根拠をサリヴァンは3つ述べていますが、うち1つをここで紹介させていただきます。以下、引用です。

The second factor accounting for the order’s resilience is that the United States has managed the transition from dominance to leadership more effectively than most appreciate. Over the past decade, U.S. diplomacy has facilitated a shift from formal, legal, top-down institutions to more practical, functional, and regional approaches to managing transitional issues — “coalitions of the willing”……

出典:Jake Sullivan, “The World After Trump: How the System Can Endure,” Foreign Affairs, March/April 2018, Published by the Council on Foreign Relations, pp.11

:秩序の回復力を説明する2つ目の要因は、合衆国による支配から指導への移行が、広く認識されているよりも効果的に行われてきたことである。過去10年にわたって、米国外交政策は形式的、法的、トップダウン型の制度から、より実効的、機能的で、諸地域に合わせた方策、いわば「意思ある諸国の連合」へとシフトしてきている。
ガチガチの制度からゆるやかな制度への移行が、国際秩序の持続性向上に一役買っているということです。
サリヴァンは、このような制度の転換が功を奏した例として、環境保護における国際制度を挙げています(同上、pp.12~13)。

環境保護に関する国際制度としては、長らく京都議定書(Kyoto Protocol)がメインなものとして地位を確立していましたが、自国の開発を行う必要がある発展途上国に温室効果ガス排出量削減義務を課すことができず、それを不満に思ったアメリカが批准しないという形で、あまり多くの国で協力することができませんでした。それに対して、新しく2015年に締結されたパリ協定(Paris climate accord, Paris Agreement)は多くの国家を巻き込むことに成功し、京都議定書に変わる実効的なとして期待されています。

この2つの制度はどう違うのか?実際に一次資料にあたってみて、どうすれば大人数の約束事を機能させることができるのかを学んでいきましょう〜

実際に京都議定書とパリ協定はどう違うのか

さて、サリヴァンは、京都議定書と違ってパリ協定が広い参加を実現できた要因を、後者の実行可能性(practicality)と柔軟性(flexibility)求めています。実際にどのような違いがあったのか、主な部分だけ比較してみましょう。

京都議定書:「結果の義務」

まずはこちらが京都議定書です。以下の条文が、締約国に対して温室効果ガス排出量の削減を求めています。

Article 3

1. The Parties included in Annex I shall, individually or jointly, ensure that their aggregate anthropogenic carbon dioxide equivalent emissions of the greenhouse gases listed in Annex A do not exceed their assigned amounts, calculated pursuant to their quantified emission limitation and reduction commitments inscribed in Annex B and in accordance with the provisions of this Article, with a view to reducing their overall emissions of such gases by at least 5 per cent below 1990 levels in the commitment period 2008 to 2012.

出典:Kyoto Protocol to The United Nations Framework Convention on Climate Change – unfccc

(下線は管理人)

↓公式の日本語訳

第3条

1. 附属書Ⅰの締約国は、2008年から2012年までの約束期間において、附属書Iの締約国全体の排出量を1990年の水準から少なくとも5パーセント削減することを念頭において、個別に又は共同で、附属書Aに掲げる温室効果ガスの人為的な排出量(二酸化炭素換算量)の合計が、附属書Bに定める数量的な排出抑制及び削減の約束に基づいて計算された割当量を超えないことを確保しなければならない

出典:気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書(和文)- 環境省

(下線は管理人)

こちらは、”shall ensure”(確保しなければならない)という強い文言を用いており、結果の義務(obligation of result)となっています。

したがって、この条約にサインした上で、もし目標を守れなかった場合、うそつきになってしまうわけですね。というわけで、特に自国の発展を急ぎたい開発途上の国々は締結を渋ってしまった。それを受けたアメリカも「不平等だ!」といって抜けてしまったというのが京都議定書の顛末でした。この失敗は、誰が悪いということでもなく、条約を作る段階でみんな少し気合が入りすぎてしまった感じですね。

パリ協定:「努力義務」

次にこちらがパリ協定です。以下の条文が、締約国に対して温室効果ガス排出量の削減を求めています。

Article 4

1. In order to achieve the long-term temperature goal set out in Article 2, Parties aim to reach global peaking of greenhouse gas emissions as soon as possible, recognizing that peaking will take longer for developing country Parties, and to undertake rapid reductions thereafter in accordance with best available science, so as to achieve a balance between anthropogenic emissions by sources and removals by sinks of greenhouse gases in the second half of this century, on the basis of equity, and in the context of sustainable development and efforts to eradicate poverty.

2. Each Party shall prepare, communicate and maintain successive nationally determined contributions that it intends to achieve. Parties shall pursue domestic mitigation measures, with the aim of achieving the objectives of such contributions.

出典:Paris Agreement – unfccc

(下線は管理人)

↓公式の日本語訳

第4条

1 締約国は、第二条に定める長期的な気温に関する目標を達成するため、衡平に基づき並びに持続可能な開発及び貧困を撲滅するための努力の文脈において、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成するために、開発途上締約国の温室効果ガスの排出量がピークに達するまでには一層長い期間を要することを認識しつつ、世界全体の温室効果ガスの排出量ができる限り速やかにピークに達すること及びその後は利用可能な最良の科学に基づいて迅速な削減に取り組むことを目的とする。

2 各締約国は、自国が達成する意図を有する累次の国が決定する貢献を作成し、通報し、及び維持する。 締約国は、当該国が決定する貢献の目的を達成するため、緩和に関する国内措置を遂行する。

出典:パリ協定 – 外務省

(下線は管理人)

1項読みにくすぎ!!!塾生がもしこんな作文を書いてきたら0点にして返したいところです(笑)

体裁はさておき、こちらは努力義務(obligation to make effort)になっていることがわかります。どこまでできるかはわからない。でも、このままでは地球環境が大変だということを念頭において、それぞれのペースで頑張ろうね!ということです。

義務の強さをどのレベルにもっていくか

こうした転換を行なった結果、パリ協定では先進国・途上国問わず192の全国連加盟国が批准することになりました。サリヴァンの言う「実効可能性」および「柔軟性」が功を奏した結果と言えるでしょう。

当然、努力義務が結果の義務に比べて常に優れているということではありません(人を殺さないように努力しましょう〜とは言っていられませんよね)。ただ、ある約束事をするときに、「自分たちがのぞむ結果を得るためにどれくらいの柔軟性が適切であるのか」を常に考えていく必要があるというのが、今回観察した事実が示唆することです。

おわりに

国際政治あるいは国際関係というのは、結局のところ人同士の関係を国同士(最近では国以外のNGOなども)の関係を複雑にしたものに過ぎません。したがって、その基本構造は日常やビジネスなどにおける人間関係と同じであり、関係する人間の数が何億倍かに増えただけです。ですので、身近な人間関係におけるヒントを国際政治に求めることも、逆に国際政治の問題を身の回りの人間関係に関連づけて考えていくことも可能です。今回はそれだけのことを長々と解説してみました。

広い範囲の人を動かしたかったら、ガチガチに義務で縛ってはいけない。私自身も、次に何らかの組織でリーダーやマネージャーになることがあれば、気をつけていきたいと思います……


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