ジェンダー観を変える男女共同生活:ノルウェー国軍での実験

昨日3月8日は国際女性デー(International Women’s Day)ということで、今日はジェンダーをテーマに記事を書きたいと思います!

題材とするのは、ドイツに拠点を置く研究機関IZA – Institute of Labor Economicsで先月発表された、”Does Integration Change Gender Attitudes? The Effect of Randomly Assigning Women to Traditionally Male Teams”という論文です。こちらを紹介し、学術的コメントを加えていきます。

(論文は同機関の許可を得て利用させていただいています。以下、本文の日本語訳は管理人によります。)

※2018年3月9日に公開した記事ですが、同年3月28日に一部修正しました。

本文の概要

全文はこちらから参照いただけます。

本文で調査される問い(research question)は、簡単に言うと、「男女の共同生活はジェンダーに対する価値観にどのような影響を与えるか?」というものです。厳密には、”whether exposure of men to women in a traditionally male- dominated environment can change attitudes about mixed-gender productivity, gender roles and gender identity ”(訳:伝統的に男性の職場とされている環境で女性と一緒に生活し、働くことによって、両性が共同に働くことによる生産性、良性の役割、性アイデンティティに対する男性の態度がどのように変わるか)という問題が調査されます。キーワードはexposure(さらされること。ここでは男性が女性に接すること)です。

研究には、ゴリゴリ男性の職場である軍隊が使われました。筆者らはノルウェーの国軍に協力してもらって、ブートキャンプ(boot camp、軍の訓練合宿みたいなもの)で男性だけのチームと男女混ぜたチームを作ってもらいました。そして、キャンプが始まる前と終わった後参加者にアンケートをとって、ジェンダーに対する意識が変わったかを観察しました。

実験プロセスを図解するとこんな感じです。

聞かれた質問のうち主なものを抜粋します。以下の文に自分の意見がどれくらいあてはまるかを数段階で答える形式です。

(1) Teams perform better when made up of the same sex.

(2) It is important for men and women to share household work equally.

(3) I am feminine.

出典:Gordon B. Dahl† Andreas Kotsadam‡ Dan-Olof Rooth§, ”Does Integration Change Gender Attitudes? The Effect of Randomly Assigning Women to Traditionally Male Teams,” IZA – Institute of Labor Economics, February 15, 2018, pp.10~11 (番号は管理人による)

それぞれ、意訳させていただくと以下の通りです。

1.「チームが同性で構成されている時に、生産性は上がる」

2.「男性と女性は家事を平等に分担するべきである」

3.「私はフェミニズムに賛同している」

被験者、すなわちブートキャンプに参加している男性らは、これらの質問について日本語でもよくあるような「あてはまる」「あてはまらない」などの数段階の選択肢の中から答えることになります。

結果は?

結果は以下の通りでした。

1.「チームが同性で構成されている時に、生産性は上がる」

“Disagree”(そう思わない)と答えた人が、男女を混ぜたチームにいた男女では15%増加

2.「男性と女性は家事を平等に分担するべきである」

“Agree”(そう思う)と答えた人が、男女を混ぜたチームにいた男女では8%増加

3.「私はフェミニズムに賛同している」

“does not fit me at all”(全くそう思わない)と答えた人が、男女を混ぜたチームにいた男女では14%減少

以上のように、女性とともにキャンプを過ごした男性は、仕事のチームに女性がいることを肯定的に見るようになり、家事分担に関して男女平等的になり、フェミニストに対して容認的になる、と言う結果が出たことがわかります(男性だけのチームでは大した変化は見られませんでした)。

同論文のすごいところ

本文のすごいところは、筆者自身が書いていますが(同上、pp.2)、調査によって逆の因果関係(reverse causality)の可能性を潰したところです。

どういうことか。「ジェンダーに対する価値観」と、「男女混ざった職場環境」は、どちらが原因でも結果でもありえます。すなわち、「女性と一緒に働くと女性に対する偏見がなくなる」ではなく、「偏見のない男性の方が男女混ざっている職場を選びやすい」という形で、原因と結果が逆になる可能性があるということです。ですから、例えば「工事現場の男性は保育士の男性より女性に対する偏見が強い」という統計が得られたところで、価値観と職場の環境のどちらが原因か結果かはわかりません。

筆者らの調査では、上に述べたようにブートキャンプの前後でアンケートをとることで、男女混合の環境が価値観を変えることを実証することに成功しています。それが同論文の大きな研究意義です。

1つだけ批判的コメント

1点だけ疑問を提示します。すなわち、「一緒に働いた女性の質が高かっただけではないか」ということです(人を質で評価することはできませんが、ほかにシンプルな言葉が見つからないのでご容赦ください)。

本文によると、調査が行われた2014年当時のノルウェー軍におけるブートキャンプのリクルート方法は以下の通りです(同上pp.8より要約)。

(1) 17歳になった全男女がウェブテストを受け、健康状態、学歴、性格、軍で働くモチベーションについて回答する(60000人程度)。

(2) (1)のテストを受けた人のうち約20000人程度が選ばれて、身体能力や認知能力に関するテストを受け、採用担当との面接を行う。

(3) (2)の男女のうち8000~10000人程度が選ばれて、ブートキャンプに参加する。

さらに、男性は選ばれた時点でブートキャンプに参加することが義務付けられるのに対し、当時女性は志願制でした。したがって、ブートキャンプに参加した女性は、能力面でもやる気面でも軍に適した人々が集まっていたのだと考えられます。

以上のことを考慮すると、今回の実験で男女混合チームに属した男性が女性に好印象を抱くのはある意味当たり前かもしれません。反対に、例えばあまり能力の高くない女性(あるいは男性)ばかりを集めて男女一緒に働かせた場合には、異性に対する偏見が加速してしまう可能性もないでしょうか?

おわりに

寝食や仕事を共にすることで偏見が軽減される、というのはとても面白い知見だと思いました。ジェンダーは個人的に興味があるところなので、今後もネタが見つかったらまた記事を書いていこうと思います!


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